某所サービスエリアのトイレが工事中でした。
男子小便器の真上の屋根裏で作業をしているらしく、頭上から声が聞こえます。
「もうちょい伸ばして!」
「あ、いきすぎ、戻して。」
「ハイそこドリル!」
こんばんわ、誰のホースに注文つけてるねん。
やっちんです。
普段から地方でライブを行うことは多いですが、リハーサルから本番までの間があきすぎている場合、時間をつぶすのに苦労することがあります。
そんな時は某バーガーショップや某喫茶店にてボケッとしていることが多いのですが。
その日も僕は某喫茶店の窓際の席に座って、日が暮れ、町に灯が点るのを非常にかっこよく眺めておりました。
そしたら窓の外の道路を妙齢の女性が通りがかり、ハンケチーフを落として行ったのです。
あ~ハンカチ落とした…。
ボケッと見てたんですけど、気づかずに女性は去っていきます。
確かにこの日の夕暮れは非常に寒く、僕も用事が無ければ普段の2割り増しの足早で家路に着くでしょう。
僕の席の隣にはOLが二人お茶してたんですが、このハンカチを落とす一連の出来事を見ていたようで、
OL1「あ~ハンカチ落として行っちゃったね…」
OL2「あ~気づかないね。でも今から(店を出て建物を回って届けに行くのは)間に合わないしねぇ~…。」
というやり取りが聞こえます。
僕も少し考えましたが、席を立ち、店を飛び出します。寒い。
そしてガラス越しとなったOLの目の前で、昔遊び「ハンカチ落とし」の鬼のようにすばやく道端に落ちたハンカチを拾い上げ、女性を追います。
喫茶店の座席からは見失った女性の姿は、曲がり角を曲がった直ぐのところに在りました。
突然の運動に少し息を切らして、でも不審がられないように息を整え、
「あの、すみません。ハンカチ落としませんでしたか?」
と差し出す。
女性(暗がりでよく分からないが美人のようだった)は
「あ、すみません、ありがとうございます。」
と言い、知らない女性に声をかけるのが苦手な僕はやっとの安堵の笑みを返し、一連のやり取りはまるで教科書のように模範的な終了を告げる。
そして席に戻ろうとすると、先ほどのOL二人して僕の方を凄く凝視している。
多分事の顛末が知りたかったんだろう。
その時僕は何故か、本当に何故か分からないんだけど、親指を立てた。
そしたらOL2人して
「ありがとうございます。」
と口にした。
おそらく自分達のやり取りを聞いて僕がハンカチを届けに走ったと思ったんだろう。
しかし実際のところは、僕が自分の天に宝を積まんがための行為。好意。
普段施したい善行を見逃す、やりそびれることは沢山ある。
こないだも東京の電車で、受験生がギリギリまで勉強していた、そして電車を出る時に消しゴムを落とした。
その出来事を見ていた僕が瞬時に判断できたなら、電車が発車するまでに消しゴムを渡して、また電車に戻ってくることが出来ただろう。
そして試験が始まってその受験生が困ることも無かっただろう。
「慣れない東京の電車に戻りそこねたら面倒くさいなぁ」
この一つの考えが、判断を濁らし、後悔を生んだ。
女性がハンカチを落としたとき、口を開けて見ていた僕を走らせたのは、その出来事がフラッシュバックしたからに他ならない。
善行などとは程遠い、自己満足である。
僕はとても恥ずかしくなり、慌ててOLたちから逃げるように精算を終え、店を出て行った。
自分の行いを恥じたからではない。
そこまで慎ましやかな人間ではない。
最後に立てた親指がものすごくかっこ悪かったからだ。
ほんっと、ケインコスギくらいしか着こなせない親指の立て方をしてしまった。
(フラグはまた立ちませんでした)